相続で家を売る

「相続で家を売る」といっても、相続開始後(被相続人の死亡後)に家を売る場合と、相続に備えて家を売る場合があります。
それぞれの場合について、家を売る際のポイント等につき解説します。

相続開始後に家を売る場合のポイント

相続が起こるとき、遺産の中に不動産が含まれていると、その処理方法が問題です。
家を相続したら、その家に住んだり賃貸に出したりしない限り、家を売ることになります。

まずは、相続開始後に家を売る場合のポイントを確認しましょう。

1)家を売るタイミングにも注意したい

相続開始後に家を売る場合、そのタイミングに注意が必要です。
売却のタイミングによって、相続税の評価額が異なってきて、相続税の金額が上がってしまうことがあるからです。
このことは、居住用の土地に認められる相続税の特例と関係があります。

具体的には小規模な宅地を相続する場合に適用される可能性がある小規模宅地の特例が問題になります。
家を相続する場合には、その宅地部分について小規模宅地等の特例が適用される可能性がありますが、家を売るタイミングによってはこの特例を受けられなくなる可能性があります。
小規模宅地等の特例を受ける事ができなくなると、家の相続税評価額がかなり大きく上がるので、相続税の支払が発生して不利益を受ける可能性があります。

A、小規模宅地等の特例とは

まずは小規模宅地等の特例がどのような制度なのかを確認しましょう。
小規模宅地等の特例とは、遺産の中に被相続人が居住用に使っていた小規模な宅地がある場合、その宅地の相続税評価額が大きく減額される特例のことです。
小規模宅地等の特例を受ける場合の減額の要件と割合は、相続がいつ起こったかによって異なります。

平成26年12月31日までの相続の場合には、居住用の宅地について、240平方メートルを上限面積として、相続税評価額が本来の80%減額されます。
平成27年1月1日以降の相続の場合には、居住用の宅地について、330平方メートルを上限面積として、相続税評価額が80%減額されます。

小規模宅地等の特例を受けるためには、以下のような要件を満たすことが必要です。

  • 妻や夫など配偶者であること(配偶者の場合には、同居でも別居でも条件を満たします)
  • 実家で被相続人と同居している子供であること
  • 別居している子供の場合、3年以上賃貸住宅に居住していて、亡くなった親に配偶者や同居親族がいないこと
  • 配偶者以外の親族の場合には、相続税申告期限まで引き続き対象の宅地を所有していること

上記の中でも重要なのは、配偶者以外の親族の場合、相続税申告期限まで引き続き対象の宅地を所有していることという要件です。

相続税申告期限は相続開始時から10ヶ月なので、配偶者以外が相続人の場合、被相続人が死亡してから最低10ヶ月間は対象の宅地を所有し続けないと、小規模宅地等の特例が適用されません。10ヶ月経過前に土地を売却すると、小規模宅地の特例が受けられなくなるので、宅地の相続税評価額が4倍以上になってしまうこともあります。

そこで、相続した家と土地を売却する場合には、相続開始後10ヶ月が経過してからにしないと相続税評価額が大幅に高くなって、本来は相続税が発生しないケースでも相続税が発生したり、本来よりも相続税がかなり高額になったりしてしまうおそれがあります。

B、小規模宅地の特例を使うための対処方法

小規模宅地の特例を使うための対処方法をまとめます。

被相続人が居住していた宅地(家)を相続した後に売却する場合には、小規模宅地等の特例を使えるように売却のタイミングに注意する必要があります。
具体的には、配偶者以外が相続人となる場合、対象となる宅地について、相続開始後10ヶ月間は所有してから売却することが大切です。
急いで売却をしてしまうと、小規模宅地等の特例を受けられなくなって相続税が高額になってしまうおそれがあるので、注意しましょう。

2)空き家にかかる譲渡所得の特別控除やマイホーム譲渡所得の特例をうまく使いたい

不動産を売却すると、その利益分に対して譲渡所得税が課税されます。
家を売却するときもそれは同じなので、相続した家などの不動産を売却する場合には、空き家にかかる譲渡所得の特別控除やマイホームの譲渡所得の特例を上手に利用することをおすすめします。
まずは空き家にかかる譲渡所得の特別控除制度とマイホームの譲渡所得の特例制度とはどのような制度なのかについて、ご説明します。

A、 譲渡所得税とは

不動産を売却すると、基本的に譲渡所得税という税金が課税されます。

譲渡所得税とは、不動産を売却したことによって得られた利益である譲渡所得に対して課税される税金です。

譲渡所得は、以下のような計算式で算出することができます。

譲渡所得=不動産売却金額-(不動産取得額+不動産売却の際にかかった諸経費)

つまり、不動産が売れたときの売却金額(収入金額)から、不動産の購入金額と購入の際にかかった諸経費及び、不動産を売却した際にかかった諸経費の合計を差し引いて、全体がプラスになる場合に譲渡所得があるとされて、譲渡所得税が課税されます。
差引がマイナスになる場合には譲渡所得がないので、譲渡所得税は課税されません。

このとき不動産売却金から差し引ける諸経費には、たとえば不動産会社の仲介手数料や印紙税、土地の測量費用、設備費、改良費などがあります。
譲渡所得税の税率は以下の通りであり、不動産を所有していた期間によって異なります。
また、譲渡所得税が課税される場合には、住民税も課税されます。

  • 不動産の所有期間が5年以内の場合、譲渡所得税の税率は30%、住民税は9%
  • 不動産の所有期間が5年を超える場合、譲渡所得税の税率は15%、住民税の税率は5%
B、マイホームの譲渡所得の特例

不動産を売却すると、上記のように譲渡所得がある限り譲渡所得税が課税されることが基本です。
ただ、売却した不動産が居住用の不動産である場合(マイホームの売却のケース)、譲渡所得税について大きく控除が認められます。これを、マイホーム(居住用不動産)の譲渡所得の特例と言います。

マイホームの譲渡所得の特例が適用される場合、譲渡所得が3000万円までの分について譲渡所得税がかからなくなります。
マイホームの譲渡所得の特例が適用されるためには、基本的には自分が住んでいる居住用の不動産を売却することが要件となります。以前に住んでいた不動産の場合には、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却することが必要です。

C、空き家の譲渡所得の特別控除制度

相続した不動産を売却したい場合、その不動産には人が居住していないことがあります。
マイホームの譲渡所得の特例は、居住用の不動産の売却であることが前提の特例なので、人が住んでいなければ売却はできないとも思えます。
ただ、このような空き家の場合でも、譲渡所得の特別控除の制度があります。
これは、近年秋や問題が社会問題化したことにより、空き家の売却を促進しようとする狙いによるもので、平成28年1月以降の不動産売却について適用されます。
空き家の譲渡所得の特別控除を受けられる場合も、マイホームの譲渡所得の特例のケースと同様、譲渡所得が3000万円までの分について、譲渡所得税がかからなくなります。
空き家の譲渡所得の特別控除制度を受けるためには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 空き家の所有者が以前、実際に空き家に居住していたこと
  • 所有者が空き家に居住しなくなった日から3年目の12月31日までに空き家を売却すること

このことからわかるとおり、空き家の譲渡所得の特別控除を受けるためには、空き家になってから基本的に3年以内(3年目の12月31日)までに売却する必要があります。
その期間を超えてしまった場合、空き家の譲渡所得の特別控除が受けられず、譲渡所得税がまるまる課税されてしまうので、大幅に税金が上がってしまうおそれがあります。
空き家を売却する際には、長期間放置することなく、なるべく早めに売却することが重要です。

D、相続した家の売却で譲渡所得の控除を受ける方法

以上より、相続した家の売却の場合に譲渡所得の控除を受ける方法をまとめます。
相続した家の売却の際にマイホームや空き家の譲渡所得の特別控除を受けるためには、家が空き家になっている場合に特に注意が必要です。

相続した家に実際に居住している場合には、いつ売却をしてもマイホームの譲渡所得の控除を受けることができますが、家が空き家になっている場合、空き家になってから3年目の12月31日までに売却する必要があります。

被相続人が亡くなるまでの間家に居住していて、死亡したことによって誰も居住しなくなってしまった場合には、被相続人が死亡してから3年目の12月31日までに売却しないと譲渡所得税の特別控除が受けられなくなります。

被相続人が生前老人ホームに入居するなどして、家が相続前から空き家になっていた場合には、さらに注意が必要です。
この場合、被相続人が老人ホームに移って空き家になってしまった日から3年目の12月31日までに売却しないと、高額な譲渡所得税の支払いが必要になってしまうおそれがあります。

たとえば、平成27年5月30日に被相続人が老人ホームに入居して家が空き家になり、被相続人が平成28年10月10日に死亡した場合には、平成27年から3年後の平成30年12月31日までに売却しないと譲渡所得の控除を受けられないことになってしまいます。
相続開始後3年なら平成31年12月31日までですが、先に空き家になっている分期間が短くなるのです。

相続が起こった場合には、相続のためにいろいろな手続きをする必要があったり、相続人らが集まって遺産分割協議をしたりしないといけないので、あっという間に時間が経ってしまいます。
また、不動産を売却しようと決めたとしても、今日明日急に売れることはなく、売却先を見つけて売却金額の交渉などもしないといけないので、売却の手続きだけで数ヶ月以上かかってしまうことが普通です。なるべく高額な価格で有利に売却を進めるためには、さらに時間をかけてゆっくり売却に取り組む必要もあります。
このようなことが原因で、気づけば空き家になってから3年が経過していて、いざ不動産を売れたときに高額な譲渡所得税がかかることが判明して、後悔することもあります。

このような問題があるので、相続した(元)居住用の不動産売却する場合、空き家になっているならなるべく早めに売却してしまうようにしましょう。
ただこの場合、上記1)でご紹介した小規模宅地の特例との関係があるので、配偶者以外の相続人が売却する際には、相続開始後10ヶ月が経過してからにする必要があります。
そこで、配偶者以外の人が空き家を売却する場合には、相続開始後10ヶ月が経過した後、3年目の12月31日までの限られた期間に売却してしまうことが、税制上もっとも有利になりますので、覚えておきましょう。

3)家を売った場合の所得税と相続税の関係

不動産を売却すると、マイホームや空き家の譲渡所得控除の制度が適用される可能性はありますが、基本的には譲渡所得税が課税されます。
しかし、相続した不動産の場合には、相続時に相続税も支払っています。そこで、相続税を支払ったことにより、譲渡所得税が軽減されることがないのでしょうか?
この点、相続した不動産や株式などを一定期間内に売却した場合には、相続税のうち一定の金額を譲渡所得の計算において取得費用に加算することができる特例があります。
この特例のことを、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」と言います。
これは、譲渡所得についての特例なので、株式などの譲渡による事業所得や雑所得についての控除は認められません。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を利用すると、相続不動産を売却した場合に相続税の一部を不動産取得費用に加算することができるので、その分譲渡所得が少なくなって譲渡所得税が低くなります。
つまり、譲渡所得の価格は、不動産売却価格から不動産取得費用を引いた価格なので、不動産取得費用が高くなると譲渡所得が少なくなるのです。
この特例を受けるためには、以下の通りの要件を満たす必要があります。

  • 相続や遺贈により不動産などの財産を取得したこと
  • 不動産などの財産を取得した人に相続税が課税されていること
  • 相続した不動産などの財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

中でも最も重要なのが3つ目の要件です。
これは、不動産売却の期限を定めているものです。

相続税の申告期限は、相続開始後10ヶ月以内ですが、その日の翌日以後3年を経過する日までに譲渡することが必要なので、具体的には、相続開始後3年10ヶ月以内に譲渡をしないと、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を受ける事ができないことになります。
この特例によって加算される取得費の計算方法は、以下のとおりです。

支払った相続税額×売却した不動産の相続時課税価額÷相続税課税価格の全額

わかりやすいように、具体例を挙げて説明します。

相続時に、総額3000万円の価格(相続税課税額)の遺産相続をした場合において、300万円の相続税を支払っていたとします。
このとき、2000万円の相続税課税額の不動産を売却したとしましょう。
このケースでは、支払った相続税額は300万円です。売却した不動産の相続税課税価格は2000万円、相続税課税価格の全額は3000万円です。
そこで、取得費用として算入される価格は
300万円×2000万円÷3000万円=200万円となります。
この200万円を、不動産取得費用として算入することができるので、その分譲渡所得が低くなります。

計算式は、以下のとおりとなります。

譲渡所得=土地を売却したときの収入金額-(取得費用+譲渡費用+200万円)

たとえば、その不動産を5000万円で売却し、購入費用が3000万円、不動産取得費用が300万円、譲渡費用が400万円の場合には、譲渡所得は
5000万円-(3000万円+300万円+400万円+200万円)=1100万円
となります。

以上のように、相続した家を売却する場合には、譲渡所得税との関係で取得費の特例を受けられた方がメリットが大きいので、やはり相続開始後早めに売却手続をすすめることが大切です。
今までの話をまとめると、以下の通りとなります。

  • 相続した家(宅地)を売却する場合、配偶者以外の人が売却する場合に小規模宅地の特例を受けるためには相続開始後10ヶ月が経過した後に売却する必要があります。
  • 相続した家が空き家の場合、空き家の譲渡所得の特例を受けるためには、空き家になってから3年目の12月31日までに家を売却する必要があります。
  • 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を受けるためには、相続開始後3年10ヶ月以内に家を売却する必要があります。

このように、相続した家を売却する場合には、ケースに応じてタイミングに注意することによって、受けられる税金の控除制度が異なってくるので、賢く対応して上手にこれらの控除の制度を利用しましょう。

4)そもそも家を売ってはいけない場合がある?

遺産相続が起こった場合、遺産の中に不動産があるなら、税制上は早期に売却手続きをした方が得になることが多いです。
たとえば、上記で説明したような空き家の譲渡所得税の特例を受けたり、取得費の特例を受けたりするためには、期間制限があるので、相続開始後速やかに手続をすすめる必要があります。そうなると、家を相続した場合も速やかに売却手続きを進めようとすることも多いでしょう。

しかし、遺産の中に不動産が含まれている場合、そもそも不動産を売却してはいけない場合があります。
それは、遺産の中に借金などの負債が含まれていて、相続放棄や限定承認をしたい場合です。この場合、不動産を売却してしまうと、相続放棄などができなくなって、相続人が借金を相続して支払をしなければならなくなる可能性があります。

相続放棄や限定承認とはいったいどのような手続きで、どのようなケースで問題になるのか、以下で順番にご説明します。

A、 相続放棄とは

まずは、相続放棄とはどのような手続きなのかについて見てみましょう。
相続放棄とは、遺産相続を一切しないで放棄することです。
遺産相続をした場合、相続財産がプラスの資産だけであるとは限りません。
遺産相続の場面においてはプラスの資産だけではなくマイナスの負債も相続対象になります。
そこで、被相続人が借金をしていた場合には、その借金も相続の対象になってしまいますし、買掛金以外の負債がある場合にも同じです。相続人が借金などの負債を相続した場合、相続人が被相続人の借金を引き継いで債権者に対して支払をしなければなりません。

たとえば、被相続人がサラ金や銀行から高額な借入をしていた場合には、相続人がその借金を相続すると、代わりに全額の支払をしなければならないのです。もし相続人がその支払いを出来ないなら、相続人自身が自己破産するしかなくなってしまいます。

通常は、このような借金や負債の相続は避けたいものですが、ここで、相続放棄の手続きが役に立ちます。
相続放棄をすると、完全に相続をしなくて良くなるので、遺産の中に借金や負債が含まれていても、それらを相続する必要がなくなります。

ただし、相続放棄をすると一切合切の遺産相続をしなくなるので、遺産の中にプラスの資産があっても、その分も相続することができなくなります。
相続放棄をするためには、自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に手続きする必要があります。自分のために相続があったことという場合、それは遺産の中に借金があったことを知ってからというように理解しておくとよいです。

相続放棄をしたい場合、家庭裁判所において、相続放棄の申述という手続きをする必要があるので、覚えておきましょう。

B、限定承認とは

次に、限定承認の手続きについて見てみましょう。
限定承認とは、遺産の内容の調査を行って差引計算をした結果、プラスの財産が多ければそのプラスの部分だけを相続し、マイナスの負債が多ければ相続をしないという相続方法です。
遺産相続が起こったとき、遺産の中に借金がありそうだけれどもプラスの資産もあり、差し引きすると全体としてプラスになるかどうかわからないことがあります。
この場合、借金を相続したくないという理由で相続放棄をしてしまうと、一切の遺産相続ができないので、差引計算をしてみたら、実はプラスの資産が多かったという場合には損をしてしまうおそれがあります
そこで、相続財産全体を評価して、全体としてプラスであればそのプラス分だけを相続し、債務超過状態になっていたら一切の相続をしないという限定承認が役立ちます。
限定承認も、相続放棄と同様、自分のために相続があることを知ってから3ヶ月以内に手続きする必要があります。この手続きをしたい場合には、家庭裁判所において限定承認の申述をする必要があります。このように聞くと、相続放棄より限定承認の方がメリットが大きいので相続放棄をする意味などないように思えます。

しかし、限定承認の場合には、相続人全員が共同で行わないといけないとか、長期間がかかるとか、譲渡所得税が課税される可能性があるなどのデメリットもあるので、必ずしも相続放棄より有利になるとはかぎりません。
以上のように、相続財産の中に借金や負債があって、それを相続したくない場合には、ケースに応じて相続放棄か限定承認の手続きをする必要があります。

C、相続放棄や限定承認ができなくなる「単純承認」

遺産の中に借金や負債が含まれていて、それを相続したくない場合には、相続放棄か限定承認をしないといけません。しかし、遺産の中に家などの不動産が含まれている場合に、それを売却してしまうと相続放棄や限定承認ができなくなってしまうので、注意が必要です。
その理由を以下でご説明します。

遺産相続が起こった場合の対処方法には、相続放棄と限定承認以外に「単純承認」があります。
単純承認とは、遺産相続が起こった際にプラスの資産もマイナスの負債も含めて全部相続してしまうことで、いったん単純承認をするとその後に相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。
遺産の中に借金がある場合に単純承認をすると、その借金を支払わなければならないので、借金を相続したくない場合には、単純承認してはいけないのです。
ところが、遺産相続が起こったときに、一部の遺産であってもそれを処分してしまったら、単純承認したとみなされてしまいます(民法921条1項)。

売却は処分行為の一種なので、遺産の中に不動産が含まれている場合に不動産を売却したら、単純承認したとみなされて、もはや相続放棄や限定承認をすることができなくなってしまいます。このことを、法定単純承認と言います。
法定単純承認が成立すると、どんなに多額の借金や負債があってもそれらを相続しなければなりません。

不動産が高額で売れて借金返済に充てることができ、借金を完済出来たりあまり借金が残らなかったりした場合などには問題にならないかもしれませんが、負債の額が大きすぎて不動産の売却金くらいでは返済仕切れないような場合には、残った借金は相続人が自分の財産から返済しないといけませんし、支払いができなければ相続人が自己破産するしかなくなってしまいます。
遺産の中に負債がある場合には、不動産を売却する前にまずは遺産の状況を把握することが大切です。
遺産内容が全体としてマイナスになる場合には、不動産の売却手続きをせずに相続放棄や限定承認を検討しましょう。

D、不利益をための具体策

遺産の中に借金が含まれている場合に不利益を受けないようにするための具体策をご説明します。
この場合、まずは遺産の内容を調査することが必要です。
わかる範囲で遺産の内容を確かめて、全体としてプラスになりそうかマイナスになりそうかを検討しましょう。

明らかにプラスになる場合には、単純承認してもかまいません。この場合には、遺産の中の家などの不動産を売却しても大丈夫です。
これに対し、遺産を差し引きしたときに負債が多く、債務超過になる場合には、不動産を売却してはいけません。遺産には手を触れずに、相続放棄か限定承認をする必要があります。

差引計算をした場合にプラスになるかマイナスになるかがわからない場合には、とりあえず限定承認をしておく方法がおすすめです。限定承認をすると、遺産の調査を行った上で、プラスになったらプラスの部分を相続出来ますし、マイナスになったら一切の相続をしなくて良くなるので、どちらにしても借金を相続するおそれがなくなります。
ただ、相続放棄や限定承認をする場合には、上記のように自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に申述の手続きをしないといけないことに注意が必要です。

自分のために相続があったことを知ったというのは、遺産の中に借金があることを知ってからなので、遺産の中に借金があることがわかったら、早めに相続放棄するか限定承認するか決めて、必ず3ヶ月以内に家庭裁判所で申述の手続きをしましょう。
なお、この3ヶ月のことを熟慮期間と言いますが、熟慮期間内にどうしても対処方法を決められない場合には、家庭裁判所に申立をして、熟慮期間を延ばしてもらうことができるケースもあります(ただし、必ず延長が認められるとは限りません)。

相続に備えて家を売る場合

今までは、相続開始後に不動産を売るケースについて考えてきましたが、相続に備えて相続開始前に不動産を売却するケースもあります。
この場合の注意点やメリット・デメリットについてご説明します。

1)相続財産中に不動産があると面倒?

相続開始前に不動産を売却すると、遺産の中から不動産がなくなりますが、このことは遺産相続の場面において大きな影響を与えることがあります。
相続財産の中に不動産があると、遺産相続手続きが面倒になることが多いです。

まず、不動産を相続した場合、法務局に対して登記申請をしなければならず、手続き自体にも手間がかかります。
また、遺産の中に不動産があると、遺産相続の際にトラブルが起こりやすいことが大きな問題です。不動産は現金や預貯金などのように単純に分割することができないので、相続人のうち誰が取得するかということでもめてしまいがちです。

また、不動産は高額なので、誰かひとりが相続をすると、他の相続人との間で不公平になってしまいます。
さらに、不動産の分割方法について、相続人間の意見が合わずにトラブルになることもあります。

このようなトラブルになるのも面倒なので、不動産の遺産分割協議をせずにそのまま共有状態にして放置していると、後になって不動産を売却したり賃貸に出したりしたい場合に、共有者全員の同意が必要になって大変煩雑です。かといって、放置していても毎年固定資産税はかかるので、相続した不動産がまさしくお荷物になってしまいます。
以上のように、相続財産中に不動産があると、上手に相続手続きを済まして活用ができれば良いですが、それができない場合にはトラブルや問題の種になってしまいます。

2)こんな場合はトラブルが起きやすい

相続財産の中に不動産があると、具体的にどのようなトラブルが起こりやすいのか、具体例を挙げて見てみましょう。

A、兄弟3人が相続争いをしたAさんのケース

まずは、兄弟3人が不動産をめぐって相続争いになってしまったAさんのケースを見てみましょう。
Aさんは、男兄弟3人で、自分は次男です。兄弟は全員が自宅から出て独立しており、遺産の内容としては、被相続人が居住して経営していた賃貸アパートがありました。

遺産全体としてはその不動産がほとんどであり、他には少しの預貯金があるだけでした。
そこで、兄弟3人は、全員が不動産の取得を希望しました。ところが、不動産は1つしかないので、誰が取得するのかでもめてしまいました。
お互いが意地になって譲り合わないために延々と遺産分割協議が続き、家庭裁判所で遺産分割調停をしたり審判をしたりして、最終的に問題が解決するまでには2年以上もかかってしまいました。
兄弟はもともと中が良かったのですが、遺産分割争いによってお互いにいがみ合い、完全に絶縁状態になってしまいました。
不動産は、結局裁判所の審判により、売却をして現金で3人が分けることになりました。

B、長男が不動産を取得したいけれども代償金を支払えないBさんのケース

次に、長男と長女、次男が不動産をめぐってトラブルになったBさんのケースを見てみましょう。
Bさんは、3人兄弟の長女で、兄と弟がいます。母親が死亡して、実家の不動産が残されました。実家には兄(長男)が居住していたので、長男が不動産の取得を希望して、長女も次男もそのこと自体には同意しました。
このとき、遺産の内容としては実家の不動産しかなかったので、長女と次男は長男に対し、法定相続分に応じて代償金の支払いを求めました。ところが、長男は「自分が家を継ぐのだから代償金の支払いは不要だ」などと言って、代償金の支払いを拒絶しました。「支払えと言われても、そのような高額なお金は持っていない」などとも言われました。

このような言い分にはBさんも弟も納得できなかったので、兄弟3人で熾烈な遺産トラブルが起こりました。
結局、Bさんの場合も家庭裁判所で遺産分割調停をすることになり、解決には2年がかかりました。
最終的には、長男が分割払いでBさんと弟に対して代償金を支払い、実家は長男が取得することになりました。

C、不動産の分割方法で意見が合わなかったCさんのケース

次に、不動産の分割方法について相続人間で意見が合わず、トラブルになったCさんのケースを見てみましょう。
Cさんは、父親が亡くなったとき、兄と2人で遺産相続をしましたが、遺産には不動産が含まれていました。
Cさんは不動産を売却して兄と2人で現金で分けたいと言いましたが、兄は不動産を単独取得してCさんに代償金を支払いたいと申し出ました。

ところが、このときCさんが納得のいく金額の代償金の提示がなかったので、意見が合わず、遺産分割協議が平行線となって話がすすまなくなりました。
そこで結局家庭裁判所で遺産分割調停をすることになり、1年たってようやくお互いが妥協し、兄が当初に申し出たよりも高額な代償金を支払ってもらうことにして決着しました。
Cさんと兄はお互いにしこりが残ってしまい、今もほとんど行き来はありません。

D、不動産を共有状態で放置してしまったDさんのケース

Dさんは、不動産を相続する際にきちんと遺産分割協議をせず、放置してしまったためにトラブルになりました。
Dさんは、兄弟3人で不動産を相続しましたが、お互いにあまり行き来がなかったことから遺産分割協議をせずに、共有の相続登記をしてそのまま放置してしまいました。
すると、毎年固定資産税だけがかかるので、数年が経過した頃、Dさんは不動産を売却したいと考えました。ところが、不動産は共有になっているので、Dさんの一存では売却ができません。そこで、Dさんはあまり行き気のない他の相続人に連絡をしようとしましたが、実は長男はすでに亡くなっていることがわかりました。
すると、長男の子どもが相続人となって不動産の所有者となっているので、Dさんは会ったこともない長男の子どもに連絡を取らないといけなくなり、大変な手間になりました。
そもそも兄の子どもがどこに住んでいるのかを調べないといけませんし、調べた後に連絡をして、不動産が共有状態になっていることの説明をしなければなりません。
売却手続をすすめるためには、いちいち共有者の印鑑をもらう必要があり、そのたびに説明が必要になって怪しまれたりしたので、Dさんはほとほと疲れ果ててしまいました。
結局不動産を売却するのはあきらめてしまい、いまだに不動産を活用することができずに放置したままになっています。
このように、遺産相続をする際に、不動産が含まれているといろいろなトラブルや問題が起こることが多くなります。

3)相続開始前に家を売る場合のメリットとデメリット

相続開始前に家を売ると、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?

まず、メリットとしては、遺産の中に不動産が含まれている事による上記のような相続トラブルを避けることができることが挙げられます。
遺産の中に不動産があると、どうしても遺産相続トラブルが起こりやすいです。ここで、相続開始前に売却して現金に換えておけば、単純に相続分に応じて分けやすくなるので、トラブルが起こることもなくなり、遺産相続がしやすくなります。

ただ、相続開始前に家を売ると、以下のようなデメリットもあります。
まず、相続開始前に家を売って現金に換えると、相続税が上がることが多いです。
遺産に対する相続税評価額は、現金預貯金よりも不動産の方が大幅に安くなるためです。

そもそも不動産の評価額は実勢価格の7割~8割程度になります。土地の相続税評価は相続税路線価によって行いますが、相続税路線価は実勢価格の8割程度なので、土地の相続税評価額は現金でお金を持っている場合の8割程度になります。
建物の場合には、固定資産税評価額をもって相続税評価をしますが、固定資産税評価額は実勢価格の7割程度になるので、建物の相続税評価額は現金でお金を持っている場合の7割程度になります。

さらに土地の場合、上記1でも説明した小規模宅地等の特例を使えば、ここからさらに8割減にしてもらうことができます。
また、不動産を賃貸していると、借地権割合や借家権割合の分評価額が減額されるので、さらに不動産の相続税評価額が7割~8割程度に減額されます。
このような制度を併用すると、現金で不動産を持っている場合と比べて2割以下の相続税評価額になることもあり、相続税がかからなくなることも増えますし、かかったとしても非常に安くなります。

ところが、相続開始前に家を売ってしまうと、遺産が現金や預貯金の形になってしまうのでこのような不動産の低額な相続税評価をしてもらうことができず、相続税評価額が大幅に上がって高額な相続税が課税されてしまうのです。

また、相続開始後3年10ヶ月以内に家を売却した場合には、上記3で説明したように、相続税の一部を不動産取得額に加算することができるので、不動産の譲渡所得税も減らすことができますが、このような特例は相続開始前に家を売却した場合には受けることができません。
以上のように、相続開始前に家を売ると、主に税金支払いの点で不利になってしまうことが多いので、注意が必要です。
相続トラブルを避けるために相続開始前に家を売却するか、節税対策を重視して相続開始後に家を売るか、ケースに応じて慎重に検討しましょう。

まとめ

今回は相続で家を売る場合の注意点について解説しました。
相続で家を売る場合、まずは相続開始前に売るか相続開始後に売るかを検討する必要があります。それぞれについてメリットとデメリットがあるので、まずは押さえておきましょう。
また、相続放棄や限定承認が必要な場合には、そもそも家の売却をすることができません。

家を売る場合には、高額な税金が課税されることを避けるため、相続税や譲渡所得税やそれらの控除制度についてもきちんと理解しておかなければなりません。今、日本では少子化や人口減少により、年々家を売りづらくなっていますが、家を売る場合には、相続制度や相続税との関係でも、ベストなタイミングで売却することが必要なのです。

相続税や譲渡所得税の控除の特例を受けるためには、相続開始後や空き家になった後一定期間内に売却しなければならないなどの条件があります。
家を売るためには、数ヶ月以上かかることが普通なので、これらの制度を使って上手に売却するためには、余裕を持って計画することが重要です。

今回の記事を参考にして、遺産の中に家などの不動産が含まれている場合にもケースに応じて上手に対処をして、後悔することがないようにしましょう。

※以上は一般的な記載であり、個別の売却のタイミングや税金の計算については、税理士などの専門家にお尋ね下さい。

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